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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)8号 判決

福岡県福岡市中央区渡辺通り2丁目8番10号

原告

株式会社九州山光社

代表者代表取締役

溝部都見

訴訟代理人弁理士

平田義則

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

吉村宅衛

八巻惺

豊岡静男

吉野日出夫

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

「特許庁が平成6年審判第7380号事件について平成7年11月16日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和62年11月16日に名称を「避雷設置工事方法」とする発明(後に「避雷接地の結線方法」と補正。以下、「本願発明」という。)について特許出願(昭和62年特許願第287259号)をしたが、平成6年3月1日に拒絶査定がなされたので、同年4月27日に査定不服の審判を請求し、平成6年審判第7380号事件として審理された結果、平成7年11月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年12月21日原告に送達された。

2  本願発明の要旨(別紙図面A参照)

通信機器類を外部から侵入する雷誘導電圧、電流から保護する各種保安器及び各種通信機器、信号機器、OA機器等複数の電気機器の接地を行う避雷接地の結線方法において、

前記電気機器の屋内側接地母線となる共通接地銅バー母線2a、2b、2cの両端をそれぞれ屋外側接地母線1、6に接続して遮蔽地線11を形成し、前記屋外側接地母線1、6を地中に埋設すると共に少なくとも2方向以上延設してそれぞれ埋設接地電極と接続し、

前記各接続部分は接続線側を総て2方向に円弧状に分岐して被接続線側に接続していることを特徴とする避雷接地の結線方法

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、その特許請求の範囲に記載された前項のとおりと認める。

(2)  これに対して、社団法人電気学会編「電気工学ハンドブック」(社団法人電気学会昭和53年4月10日発行)1408~1409頁、1416~1420頁(以下、「引用例1」という。別紙図面B参照)には、「接地・しゃへい装置」の見出しのもとに、送電線や変電所内で発生した地絡故障及び雷撃時等の異常電流による大地側の電位変動を抑制し、所内外の人身の安全を図り、かつ機器及び電気回路等の絶縁を保護すること、また、送電線から侵入する雷サージに対して、避雷器の保護効果が増して、被保護機器との絶縁協調が確保できる連接接地が記載され、28表には、「接地線を網状に埋設する方法」として、接地線を格子状に埋設し、各交点でこれらを連接して、これを機械器具・設備そのほかの接地線と連続することが図示され、また、雷サージの対策として、近傍送電線の十分なしゃへいと、接地による直撃雷の防止と、避雷器等の適切な使用による機器絶縁との協調があり、さらに、所内接地電位上昇の規制及び低圧制御回路への誘起電圧の抑制が主なものであることが記載されている。

また、昭和56年特許出願公開第132777号公報(以下、引用例2」という。別紙図面C参照)には、「避雷導線との接続部から放射状の分布位置に接地部を置き、前記接続部と接地部間を指数関数的曲線状の接続部材で電気的に接続してなる接地極」(特許請求の範囲)、「指数関数的接続法は、接地極の接続方法として一番適しており、低いサージインピーダンスの接地極を提供するものである。」(2頁左下欄下から7行ないし4行)、「このような接続構造を採れば、接続部材のインダクタンスは接地部に向って急速に漸減されるため接続部における進行波の反射が低減されサージ接地抵抗を十分低く保ち得るものである。」(2頁右下欄9行ないし12行)旨が記載されている。

(3)  本願発明と引用例1記載の技術的事項とを比較すると、両者は、

「通信機器類を外部から侵入する雷誘導電圧、電流から保護する各種保安器及び各通信機器、信号機器、OA機器等複数の電気機器の接地を行う避雷接地の結線方法において前記電気機器の屋内側接地母線となる共通接地母線の両端を接地母線に接続して遮蔽地線を形成し、地中に埋設し接地電極と接続している避雷接地の結線方法]

である点で一致する。しかしながら、本願発明の避雷接地の結線方法が、共通接地バー母線の両端を屋外側母線に接続し、接続線側を総て2方向に円弧状に分岐して接続しているのに対し、引用例1にはこのような結線方法が記載されていない点において両者は相違する。

(4)  上記相違点について検討するに、低いサージインピーダンスの接地を得るため、接地部と避雷導線との接続部を指数関数的曲線状態で放射状に配置する接地方法が引用例2にも記載されており、しかも、本願発明と同一の技術課題にたつ以上、引用例1記載の避雷接地の接地方法に引用例2記載の接地方法を転用し、相違点に係る本願発明の構成を得ることに格別の困難性は認められない。

そして、本願発明の作用効果について検討しても、各引用例記載の技術的事項から予測し得た程度のものである。

(5)  したがって、本願発明に、引用例1及び引用例2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

各引用例に審決認定の技術的事項が記載されていること、本願発明と引用例1記載の技術的事項が審決認定の一致点及び相違点を有することは認める。しかじながら、審決は、本願発明と引用例1記載の技術的事項との相違点を看過し、かつ、その認定した相違点の判断を誤った結果、本願発明の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  相違点の看過

本願発明は、複数の電気機器を連接接地した回路全体のインピーダンス整合を良好にして、接地回路に近接雷等による雷サージが侵入しても回路中に電位差が生じないようにするために、地中に埋設されていない屋内側接地母線となる共通接地銅バー母線(以下、「屋内側母線」という。)の両端をそれぞれ2方向の円弧状に分岐させて、地中に埋設されている屋外側接地母線(以下、「屋外側母線」という。)に接続する構成を採用したものである。

これに対し、引用例1記載の技術は、放電表面積を広くして接地抵抗を低減するために、格子状の屋内側母線をすべて地中に埋設するとともに、この屋内側母線と屋外側母線とを直角に接続するものであるが、このような構成によっては回路全体のインピーダンス整合を得ることはできず、雷サージが侵入したときは回路中に電位差が生じて電気機器を焼損するおそれがある。

このように、本願発明と引用例1記載の技術的事項とは、電気機器を雷害から保護する避雷接地の結線方法である点においては共通するが、回路全体のインピーダンス整合が得られる構成であるか否かの点において重大な相違があるのに、審決はこれを相違点として認定していない。そして、この相違点に係る本願発明の構成の想到容易性の判断遺脱が、本願発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

この点について、被告は、本願発明の屋内側母線が地中に埋設されていないとする点は発明の要旨に基づかないものであると主張する。

しかしながら、本願発明の特許請求の範囲には、屋外側母線については地中に埋設することが明記されているのに対し、屋内側母線については地中に埋設することは何ら記載されていないのであるから、本願発明が要旨とする屋内側母線は地中に埋設されるものではないと解するのが自然である(なお、電気設備技術基準においては、屋内側母線は絶縁性を確保する手段を講ずべきことが定められている。)。

また、被告は、「インピーダンス整合」の意味を、サージインピーダンスの低下を図ることと主張している。

しかしながら、「インピーダンス整合」とは、回路の特性インピーダンスと負荷インピーダンスとを等しくすることであって、このことは、本願明細書に「連接接地を行う接地回路全体におけるインピーダンスの整合性に支持され、その接地回路の同電位化という協調の効果を更に高めて電気機器の保護を有効に行う」(平成5年6月17日付け手続補正書(以下、「補正明細書」という。)5頁10行ないし13行)と記載されていることから明らかである。そして、本願発明が要旨とする屋内側母線の両端をそれぞれ2方向の円弧状に分岐させて屋外側母線に接続する構成は、サージインピーダンスを低下させるとともに、回路全体のインピーダンス整合を実現するものである。

(2)  相違点の判断の誤り

審決は、「引用例1記載の避雷接地の接地方法に引用例2記載の接地方法を転用し、相違点に係る本願発明の構成を得ることに格別の困難性は認められない」と判断している。

しかしながら、引用例1記載の技術が、近接雷から誘導された雷サージから電気機器を保護するためのものであるのに対し、引用例2記載の発明は、避雷針に対する直撃雷の雷サージを速やかに大地に放電するための技術であって、両者は避雷接地の対象とする雷サージのエネルギーの大きさが全く異なる。のみならず、引用例2記載の発明は垂直的電界に関するものであるから、サージインピーダンス低下のためには接地導線によって大きな円弧を形成しなければならないのに対し、引用例1記載の技術は水平的電界に関するものであるから、サージインピーダンス低下のために結線部を引用例2に記載されているように大きな円弧に形成することは現実的でないし、そもそも、引用例1記載の技術には、引用例2記載の(避雷電線4と接地棒6との)接続部5に相当するものがない。強いて接続部を指摘するとすれば、機器や設備と埋設接地線との接続部ということになるが、仮にこの部分に引用例2記載の結線方法を適用して、接続部を円弧状に形成したとしても、埋設接地線の交差部は直角に接続されたままであるから、回路中に雷サージが侵入したときはこの部分の電位が上昇して、機器の破壊焼損を防止することができない。したがって、引用例2記載の結線方法を引用例1記載の技術に適用することを考える余地のないことは明らかであって、審決の上記判断は誤りである。この点について、被告は、別紙図面Bにみられる格子状に埋設されている接地線の各交点が、引用例2にいう接続部5に相当する旨主張するが、両者は存在する場所が全く異なるから被告の上記主張は当たらない。

なお、被告は、本願発明は雷サージのエネルギーの大小を前提とする技術的思想ではない旨主張するが、電気機器を屋内側母線に接続する構成が、近接雷から誘導される雷サージを避雷接地の対象としていることは技術的に明らかであるから、被告の上記主張は当たらない。

第3  請求原因の認否及び被告の主張

請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  相違点の認定について

原告は、本願発明が、回路全体のインピーダンス整合を良好にして接地回路に雷サージが侵入しても回路中に電位差が生じないようにするために、地中に埋設されていない屋内側母線の両端をそれぞれ2方向の円弧状に分岐させて地中に埋設されている屋外側母線に接続する構成を採用したものであるのに対し、引用例1記載の技術は、放電表面積を広くして接地抵抗を低減するために格子状の屋内側母線をすべて地中に埋設するとともにこの屋内側母線と屋外側母線とを直角に接続するものである旨主張する。

しかしながら、屋内側母線が地中に埋設されていないとする点は、本願発明の要旨に基づかないものであって失当である。そして、本願発明と引用例1記載の技術的事項が屋内側母線と屋外側母線の接続方法において異なる点は、まさしく審決が相違点として認定した事項にほかならない。

しかるに、原告は、本願発明と引用例1記載の技術的事項とは、電気機器を雷サージから保護する避雷接地の結線方法である点においては共通するが、回路全体のインピーダンス整合が得られる構成であるか否かの点において重大な相違があるのに、審決はこれを相違点として認定していない旨主張する。

「インピーダンス整合」の語は補正明細書において初めて用いられたものであるが、その具体的な技術内容は同明細書には記載されていない。そして、出願当初の明細書には、電気機器を雷サージから保護する避雷接地において、屋内側母線の両瑞をそれぞれ2方向の円弧状に分岐させて屋外側母線に接続する構成は、接地抵抗の低減のみならずサージインピーダンスの低下を図るためであることが記載されているから、「インピーダンス整合」の意味は、サージインピーダンスの低下を図ることであると解するのが相当である。そして、審決は、その認定した相違点の判断において、「雷電流のような急峻波に対し、低いサージインピーダンスの接地を得る」ための接地方法が引用例2に記載されており、引用例1記載の技術的事項に引用例2記載の接地方法を転用することに困難はなかった旨判断しているのであるから、審決に相違点の看過ないし判断遺脱があるとはいえない。

2  相違点の判断について

原告は、引用例1記載の技術と引用例2記載の発明は避雷接地の対象とする雷サージのエネルギーの大きさが全く異なる旨主張する。

しかしながら、避雷接地の対象とする雷サージのエネルギーの大きさが異なることが、引用例2記載の結線方法を引用例1記載の技術に適用することの妨げとなる理由はないし、そもそも、本願明細書には本願発明が避雷接地の対象とする雷サージのエネルギーの大きさに関する記載は全く存在しないことから明らかなように、本願発明は雷サージのエネルギーの大小を前提とする技術的思想ではないから、原告の上記主張は相違点に係る審決の判断を誤りとする論拠にはならない。

また、原告は、引用例1記載の技術には引用例2記載の接続部5に相当するものがないから、引用例2記載の結線方法を引用例1記載の技術に適用することを考える余地はない旨主張する。

しかしながら、別紙図面Bにみられる格子状に埋設されている接地線の各交点が、引用例2にいう接続部5に相当するものであり、この各交点において一方の線を円弧状に分岐して接続するというのが相違点に係る審決の判断の趣旨であるから、原告の上記主張は当たらない。

そして、引用例2記載の発明においては、雷電流のような急峻波に対し、低いサージインピーダンスの接地を得るため、接地部と避雷導線との接続部を指数関数的曲線状態で放射状に配置しているので(2頁右上欄9行ないし12行、別紙図面Cの第9図、第10図参照)、当業者であれば、引用例1記載の避雷接地方法に引用例2記載の接地方法を転用して本願発明の構成にすることに格別の困難性はない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)、3(審決の理由の要点)、及び、各引用例に審決認定の技術事項が記載されており、本願発明と引用例1記載の技術的事項が審決認定の一致点及び相違点を有することは、いずれも当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いのない甲第2号証(特許願書添付の図面)及び第3号証(補正明細書及び図面)によれば、本願明細書には本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が次のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)技術的課題(目的)

本願発明は、複数の電気機器を近接雷等の雷サージによる雷害から保護するための避雷接地の結線方法に関するものである(1頁20行ないし2頁2行)。

雷サージから電気器機を保護するため、従来、別紙図面Aの第1図に示されているように、電気機器13を接続した屋内側母線2の一端側を、分岐せずに屋外側母線1に接続したものがあった(2頁4行ないし8行)。

また、引用例1に記載されているように、格子状に埋設した接地線の各交点を連接したり、土中に複数打ち込んだ接地棒を連接して形成した埋設電極に、電気機器を接続する方法もあった(2頁9行ないし14行)。

さらに、引用例2に記載されているように、埋設電極を棒状や平板状にせず、避雷導線との接続部から放射状の分布位置に接地部を置き、接続部と接地部間を指数関数的曲線状の接続部材で電気的に接続したものもあった(2頁15行ないし20行)。

雷害を防止するに当たっては、基本的考え方として、絶縁協調のほか、サージインピーダンスの協調が重要である。例えば、エリア内に複数の電気機器があり、これらを一区切りずつ集約し接続した状態で連接接地するとき、各接地線から接地電極まで(特に、連接接地部分)に、電流協調と電圧協調とを併用したインピーダンス整合が良好に行われていない部分があると、その部分に電位差が発生して、電気機器の破壊焼損を起こすことがある(3頁2行ないし15行)。

この場合、電気機器側に侵入してきた雷サージは、その波形が急峻な衝撃波となって放電通路を進行する。特に、埋設された屋外側母線の連接接地部分に直角に曲げられた部分があると、屋外側母線と機器接続側との間のインピーダンス不整合が大きくなる。この場合は、屋外側母線において雷サージの高周波成分のインピーダンス不整合が著明に生じ、また、接続部分の接触抵抗も増えるので、インピーダンス整合を妨げることになる(3頁16行ないし4頁5行)。

ところで、前記の別紙図面Aの第1図に示されている構成は、単にエリア内の複数の電気機器を集約して接地したものにすきないし、引用例1記載の構成は、接地電極と大地との接地抵抗低減を図る結線方法ではあるが、回路全体のインピーダンス整合を意図したものではない。また、引用例2記載の構成は、エネルギーの大きい雷電流を流す避雷導線に直結するための接地電極の形状を示すものであって、この接地電極に複数の電気機器を接続しても、回路全体のインピーダンス整合を得ることはできない(4頁6行ないし18行)。

本願発明の目的は、連接接地を行う回路全体におけるインピーダンスの整合性に支持され、その接地回路の同電位化という協調の効果を更に高めて電気機器の保護を有効に行うことができる避雷接地の結線方法を提供することである(5頁8行ないし14行)。

(2)構成

上記の目的を達成するために、本願発明は、その要旨とする構成を採用したものである(1頁5行ないし17行)。

(3)作用効果

本願発明によれば、回路全体が閉ループ的に一体となり、また、連接接地した回路全体のインピーダンス整合が得られるから、接地回路に近接雷等による雷サージが侵入しても、回路中に電位差が生ずることが少なく、したがって従来の連接接地より安全に電気機器を保護することができる。さらに、接続部分を円弧状結線によって接続するため、特に埋設部においてサージインピーダンスが高くならず、また、電流協調と電圧協調を併用してインピーダンス整合を良好にすることができる(10頁20行ないし11頁12行)。

2  相違点の認定について

原告は、本願発明と引用例1記載の技術的事項とは、電気機器を雷サージから保護する避雷接地の結線方法である点において共通するが、回路全体のインピーダンス整合が得られる構成であるか否かの点において重大な相違がある旨主張する。

まず、本願明細書にいう「インピーダンス整合」の意味について、原告が、回路の特性インピーダンスと負荷インピーダンスとを等しくすることであると主張するのに対し、被告は、サージインピーダンスの低下を図ることであると主張するので検討するに、本願明細書に「連接接地を行う接地回路全体におけるインピーダンスの整合性に支持され、その接地回路の同電位化という協調の効果を更に高めて電気機器の保護を有効に行う」(5頁10行ないし13行)と記載されていることは前記のとおりである。したがって、本願明細書にいう「インピーダンス整合」は原告主張の意味であると理解するのが自然であって、被告の主張は「整合」という語と余りにもそぐわないというべきである。

そして、成立に争いのない甲第5号証によれば、引用例1には、「接地の目的」の項に「被保護機器との絶縁協調が確保でき、(中略)各設備の接地と避雷器の接地を連接するとより一層保護効果が増す(連接接地)。」(1408頁右欄36行ないし39行)と記載されていることが認められる。そして、引用例1の28表に「接地線を格子状に埋設し、各交点でこれを連接」する構成が記載されていることは、審決認定のとおりである。したがって、引用例1には、接地回路全体のインピーダンス整合を図ることが開示されていると解するのが相当である。なお、屋内側母線と屋外側母線の具体的な結線方法において、本願発明と引用例1記載の技術的事項とが異なっていることは、審決が相違点として認定しているとおりであるから、審決に相違点の看過があるという原告の主張は当たらない。

この点に関連して、原告は、本願発明が要旨とする屋内側母線が地中に埋設されていないのに対し、引用例1記載の技術は格子状の屋内側母線をすべて地中に埋設している点において両者は相違する旨主張する。

しかしながら、接地回路の最終的な接地(アース)は地中に埋設された接地電極によって行われるのであって、屋内側母線を地中に埋設するか否かは、施設等の状況に応じて適宜に選択し得る単なる設計事項にすぎないから、上記の点をもって、審決が本願発明の要旨とする構成と引用例1記載の技術における構成との相違点を看過したということはできない。

3  相違点の判断について

原告は、引用例1記載の技術と引用例2記載の発明は避雷接地の対象とする雷サージのエネルギーの大きさが全く異なっており、引用例2記載の発明においてはサージインピーダンス低下のためには接地導線によって大きな円弧を形成しなければならないのに対し、引用例1記載の技術においてサージインピーダンス低下のために結線部を引用例2に記載されているように大きな円弧に形成することは現実的でないから、引用例1記載の技術に引用例2記載の結線方法を適用することを考える余地はない旨主張する。

確かに、審決が引用例1から援用した技術は、その一致点の認定から明らかなように、複数の電気機器を雷サージから保護する技術であるから、その避雷接地の対象とする雷サージの大きさが、引用例2記載の発明が避雷接地の対象とする雷サージの大きさと異なると考えることはできる。しかしながら、審決が引用例2から援用した技術的事項は「雷電流のような急峻波に対し、低いサージインピーダンスの接地を得るため、接地部と避雷導線との接続部を指数関数的曲線状態で放射状に配置する接地方法」であるが、避雷接地におけるサージインピーダンス低下の電気的原理自体は、対象とする雷サージの大きさにかかわりなく同一であることは当然であるから、避雷接地の対象とする雷サージの大きさが異なっても、対象とするエネルギーの大きさに合わせて接続部寸法を適宜選択すればよく、このことは、引用例2記載の結線方法を引用例1記載の技術に適用することの妨げとはならないというべきである。

この点について、原告は、引用例1記載の技術には引用例2記載の(避雷導線4と接地棒6との)接続部5に相当するものがないから、引用例2記載の結線方法を引用例1記載の技術に適用することを考える余地はない旨主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第6号証によれば、引用例2には「指数関数的接続法は、接地極の接続法として一番適しており、低いサージインピーダンスの接地極を提供する」(2頁左下欄下から7行ないし5行)と記載されていることが認められるから、引用例1記載の技術を示す別紙図面Bにおいて、縦横の接地線の交点、及び、横の接地線と鉄構との交点を引用例2にいう接続部5とみなして、これらの箇所の結線に引用例2記載の結線方法を適用することは、当業者ならば容易に想到し得た事項と考えることができる。

以上のとおりであるから、相違点に係る審決の判断にも誤りはない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面A

第1図は従来の避雷接地の結線状態を示す説明図である。

第2図は本発明実施例の避雷接地の結線状態を示す説明図である。

1、6:埋設接地母線(接地母線)

2a、2b、2c:屋内共通接地銅バー母線

4a、4b、4c:円弧状結線部

7a、7b、7c:円弧状結線部

〈省略〉

〈省略〉

別紙図面B

方式 接地線を網状に埋設する方法

施設方法 接地線を格子状に埋設し、各交点でこれらを連接して、これを機械器具・設備そのほかの 接地線と接続する。〈省略〉

別紙図面C 「2…接地導線、4……避雷導線」

〈省略〉

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